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藤田さんは目元を細めて、お礼の言葉を口にする。
その言葉に私は、心なしか胸が高鳴ったが、すぐに抑えて、『どういたしまして』と短く返事をした。
「あ……」
「なに?忘れ物ですか?」
並んで歩いていると藤田さんが何かを思い出したように小さく声を零し、私は怪訝な顔をする。
だけど、私の予想よりもはるかに上回った言葉が返ってきた。
「俺の家、ここから近いんだ。少し寄っていくか?」
「え、藤田さんの家に?じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
このまま断って、家に帰っても良いが、どうせ一人暮らしの家だ。
何もすることなく、ご飯を食べてお風呂に入って寝るだけ。
それならば、と考えた私は、藤田さんの家に上がらせてもらうことにした。
「お邪魔します……」
藤田さんに付いていくまま、ほんの病院から五分ほど歩いて、家に着いた。
ここって……少し家賃が高いマンションだよね。
防犯対策も完璧、エントランスも廊下も高級ホテルのような構造で、藤田さんの家に入ると白を貴重とした玄関がまず出迎えてくれる。
私の低家賃のアパートとの差があり過ぎる。
これが貧富の差かな……。
うん……?
この絵画、いくらするんだろう?
おやおや?
綺麗な花瓶に綺麗な花……。
「おい……。いつまでぼんやりと突っ立っているんだ……。早く入ってくれ」
「す、すみません……っ!!」
「・・・」
私の住んでいる家とは全く違いすぎて、つい玄関を観察していると後ろから、少し苛立った声が聞こえてきた。
私は、すぐにヒールを脱いで綺麗に揃えると少しの廊下を歩いて、リビングへと入った。
広い……。
「何か食べていくか?パスタくらいなら、すぐ作れるが」
「そ、そんな……大丈夫です。少しだけ休んで帰りますから……」
「確か麺は……こっちに入っていたような……」
き、聞いてない……っ!
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