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沈黙が続き、時計の針の音しか聞こえない。
そして、隣から規則正しい息遣いが聞こえてき、私は目を瞠らして隣を見る。
ソファーにもたれたまま藤田さんは、上を向いて寝ていた。
「ふ、ふじ……」
体を揺すって起こそうと手を伸ばしたが、私の手は宙に浮いたまま固まってしまった。
きっと、この五日間、桜井琥珀さんの意識が戻らなかったら……と気を張っていたかもしれない。
実際に桜井琥珀さんの親御さんから電話で意識を取り戻したと聞いた時の藤田さんは、安堵した表情をしていた。
そして、彼女から幕末での話を聞くことができ、安心したのだろう。
私は、そう考えると起こすわけにもいかず、ソファーに体を沈めた……。
「……づき…………秋月」
「……ん」
それからどれくらいが経っただろう。
体を揺さぶられて私は、目をゆっくりと開けた。
すると、藤田さんが心配し……いや、眉間に皺を寄せていた。
「あ、あれ……?」
「悪い、少し目を瞑ったつもりが熟睡してしまっていたらしい……。そして、何故、お前も一緒になって寝ている。起こしてくれれば良いものの……」
「……えっと、今……何時です……?」
どうやら困っているらしい藤田さんをまだ覚醒しきれていない頭で何とかフル活動させる。
私は、時計を見ようと腕を捲る。
やばい……っ。
終電時間、過ぎてる!?
腕時計の針は、すでに夜中の一時を指していた。
サッと体中から血の気が引いていき、どうしたものかと、藤田さんを見つめる。
彼も困ったようにこめかみ部分を指で掻いてから、こう言った。
「こんな時間、か……。泊まっていくか?」
「い、いえいえ……っ!!そんな……邪魔になりますし、私、どっかホテル探して泊まりますよ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた藤田さんに私は、頭の中で変な想像をしてしまい、赤面しつつ何とか断る。
そんな私の反応が面白かったのか、藤田さんは満足そうに笑って立ち上がった。
「言うと思った……。車を出そう、送っていく」
「そ、それも……」
「夜道を女一人で歩かせるわけにもいかない。遠慮するな」
「…………はい」
半ば強引に私は頷き、藤田さんはスーツのジャケットから車の鍵のようなものを取り出す。
それを見た時、急いで帰りの支度をする私だった。
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