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翌朝。
あまり寝た気分がしないまま、会社に出勤した。
しかし、会社のエントランスからどうもザワザワと騒がしい。
私は、怪訝な顔をして首を傾げて、自分のオフィスへと向かった。
「秋月さん!秋月さん!聞いた?」
「え?何を?」
オフィスへ入るとすぐに複数の女性社員が私の所へ集まってきた。
女性からモテている藤田さんの家に上がり込み、夜中に家を出て行ったということを目撃されたのだろうか。
もし、それならば、私の立場が危うい。
複数の女性社員に囲まれて、若干身構えた。
すると、一人の社員が私に顔を近づけてこう言うのだ。
「とうとう出たのよ」
「あの、ですから何の話ですか?」
「ゆ、う、れ、い!!」
「はい?」
幽霊……?
また、そんな非現実的な話を……。
私は、軽く失笑して『居るわけないじゃないですか』と女性社員に言った。
「おはようございま……」
「藤田くんっ!!聞いてよ、幽霊が出たのよ!」
私の後からやって来た藤田さんも同じように社員に囲まれる。
藤田さんは、朝から騒がしいのが迷惑なのかあまり良い顔をしていなかった。
その顔は一瞬のことで、すぐに愛想の良い笑みを浮かべるのも彼がモテる一つだろう。
彼の内心は穏やかではないはず。
「あはは……幽霊とは……。誰が見たんです?」
「昨日、残業をしていたあたしと佐藤さんよ。あの新選組の格好をした男の人が廊下を歩いていて……っ」
「それに今朝早くに出勤していた別のオフィスでも見たそうよ」
「それはまた……」
女性社員が顔面蒼白に語る様子から本当に言っているみたいだ。
藤田さんも彼女の様子を見て、真面目な顔をすると私の方を向いた。
何かを言いたそうにしているが……今は女性社員達が彼を捕まえている状態なので、私は一応頷く仕草だけをしておく。
後で藤田さんに話をしよう。
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