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いつもと変わらない日常、風景、仕事。
それがいつまでも続いていれば、安定した毎日が過ごせる。
だけど、それはいつも誰かの手によって変えられていく……。
社内での幽霊騒ぎが広まり、今日の午前中はその話で持ちっきりだった。
昼食の時間になり、藤田さんは、いつも女性社員達に誘われて外へご飯を食べに行くのに、今日は私と共に屋上で食べることになった。
「今日はずっと、浅葱者の話ですね」
「なんだ?そのアサギモノとは?」
「なんか、社員さんがそう名付けてましたよ?浅葱色の羽織を着た人って意味じゃないですかね?」
「やれやれ……どうせ、田中さんと佐藤さんがでっち上げた作り話だろう」
今日の幽霊騒ぎの話をしながら、階段を登り、屋上へ続くドアノブを回した。
錆び付いた不快な音が階段に響き、扉を開けると眩しい光が穏やかな風と共に入り込む。
私が先に屋上へと出るとどうやら先客が居たらしい……。
その人物は、どこか見慣れない和服の格好していて、屋上の端の部分に立っていた。
今にも屋上から飛び降りてしまいそうなその人に私は動揺して動けなかった。
浅葱色の羽織と鉢金の白い紐、色素の薄い茶髪の髪が風によってなびいている。
「なるほど……本当にアサギモノは居るらしい」
藤田さんは、動揺して動けない私を押し退けて、その浅葱者と名付られた人物を見据える。
私達の存在に気づいたのか、浅葱者はゆっくりと振り向いた。
「おや……?見つかってしまいましたか……」
冷たい表情をした、その人は小さく笑みを浮かべていた。
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