166人が本棚に入れています
本棚に追加
「なるほど……本当にタイムスリップとやらは存在するらしい……。あの男が原因か……または、単なる偶然か……」
藤田さんは、あまり動揺しているようには見えず、むしろこの状況でも冷静に分析して、現実を受け入れている。
私は、周りの人が全員着物なのに自分達がスーツ姿ということに落ち着かなかった。
完璧に浮いた存在。
これが夢であれば、ただの時代劇の撮影であってくれれば良いのに……という考えは、周りや自分の状態を考えれば、現実だとすぐに感じた。
「……付いて来ましたか」
呆然とする私と物珍しそうに辺りを見渡す藤田さんの前に現れたのは、会社で噂となっていた浅葱者……。
「し、新選組……っ!?」
「……っ」
今回は一人じゃない、後ろには同じように浅葱色の羽織をなびかせ、腰には刀を差した複数の男の人たち。
この町の風景に格好を見て、新選組だと分かった。
藤田さんは、私を背に隠し、真ん中に立つ浅葱者を見据える。
「斎藤隊長っ!?」
「違いますよ、彼は斎藤君に似た異国の者です。服装が違うでしょう?」
「で、ですが……」
「とにかく、彼らを捕まえなさい。京の町の秩序を乱す人間です。捕まえるだけで傷つけてはいけませんよ」
「はっ……!」
その人は後ろに居た仲間にそう命令を下すと、彼らは刀を抜いて私達の周りを取り囲んだ。
道端に追い詰められて、逃げることができない。
ギラリと光る刃物。
私は、恐怖からか脈が早くなり、次第には軽い過呼吸を起こした。
「ふ、ふじ、た……さん……」
「……新選組、こんな機会は二度とない。ここは大人しく捕まるべきか……。下手に抵抗すると殺されるだろうな。いや、だが……っ」
藤田さんは、家屋の壁に立て掛けていた細長い棒を取ると、地面に叩きつけて短くし、そのまま中段に構えたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!