霞む景色

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白髪の青年の落ち着いた態度に若いサラリーマンは疑念を抱くが、まず自分にできることを探し、傷の処置を施した。 「おかしい、本体が消えないとは……」 白髪の青年は、すっかり意識を無くしてしまった女子高生を眺めながら、静かな声で呟く。 その声は、隣で処置をしている若いサラリーマンには聞こえていない。 そして遠くから、徐々に近づいてくる救急車の音。 救急車は、彼らの近くで止まり、救急隊員が急ぎ足でやってきた。 素早い行動で意識の無い女子高生は、担架に運ばれて、救急車に乗る。 「さて歴史の教科書が変わる、か……。誰かが消えるか、彼女が死ぬか。または、別の世界へ行くか……」 白髪の青年は、ベッタリと手に付着した血を気にすることもなく、再び白衣のポケットに手を入れた。 白衣の裾と白い前髪が風により、ユラユラとなびく。 「いくつもある可能性の世界に迷い込んでしまった。彼女は、私と同じ人間……」 救急車が音を発てて、病院に向かったのを見送りながら、興味深いとでも言いたそうに小さく口角を上げた。 「貴方、医者じゃないのですか?」 「いいえ?私は、ただの研究員ですよ。では、これにて失礼」 「・・・」 隣で同じように見送っていた若いサラリーマンが白髪の青年に問いかけたが彼は、意味深な返事を残し、背を向けて歩き出したのだったーー。  
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