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藤田さんの質問に私は、『分かりません』と言って首を振った。
その対応に彼は、ため息を吐いて廊下の柱にもたれる。
「そうか……」
「何か、その人に心当たりがあるんですか」
「いや、スマホを見て驚かないというのが不可解で……斎藤さんが追っている人となれば、これから俺達と関わりのある人かもしれないと思ったんだ」
藤田さんは、少し考え過ぎるところがあるのかもしれない。
私は、藤田さんの肩に手を添えると笑顔を見せた。
しかし彼は、私の手から逃れるようにして、さり気なく離れていく。
「藤田さん?」
「とりあえず、もう少し俺も探してみる。現代に戻れる方法」
「はい」
そう言って微笑んだ藤田さんは、私に背を向けて廊下を歩く。
私も……早く戻れるように探さないとな。
藤田さんの背中をぼんやりと見つめたまま、そう心の中で思った。
しかし『うん?』と私は、彼の小さな変化に気づいた。
肩を押さえて、少し足を引きずっている気がしたのだ。
それは、一瞬のことで私は、ただ首を傾げるだけでただの見間違いかと思ってしまう。
藤田さんが角を曲がり、見えなくなると短く息を吐き、女中の仕事に戻るため、藤田さんとは別の方向へと足を向けたーー。
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