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「だいぶ、ここの仕事に慣れてきたんじゃねぇのか」
「土方さんが、細かい所まで仰るもんですから」
「なんだ嫌味か?秋月」
そんな簡単に現代へ戻る方法は見つからず、屯所に住まわせてもらって数日が経った。
結局私は、土方さんの部屋で寝させてもらい、この数日間で彼とは距離が縮まったと思う。
そもそも最初から会社の部長と似ている部分もあったことから、あまり初対面とは感じられなかったというのもあるだろう。
土方さんが文机の前に座り、難しい顔をして書類に目を通しているのを視界の端に入れながら、机に湯呑みを置いた。
「で、順調なのか?お前らの方は」
「いえ……全く手掛かりが無くて」
「ふーん」
土方さんは、書類を机に放り投げると煙管を手に持ち、隣に座る私の方をちらりと見た。
肩を落としていた私を見て、鼻で笑うとガシガシと私の頭を撫でる。
「ま、そんな気を落とすもんじゃねぇだろ。現実的に起こり得ないことが起きたんだ。容易にまた起こるとは限らねぇしな」
彼なりの慰め方なのだろう。
私は、乱れてしまった髪を整えながら、部長よりかは遥かに優しいと密かに思う。
『ありがとうございます』と小さくお礼を言って、部屋を出ようと腰を上げた時、障子戸に影が映り、その後に『藤堂』と名乗った。
土方さんが許可を促すと障子が開き、手に書類らしき紙を持った平助君が入ってくる。
「報告書」
「はい、ご苦労さん。どうだ、市中の方は?」
「三条大橋で一人、八坂神社付近で一人、死体があった」
「また辻斬りか?」
平助君が土方さんに報告書なる書類を渡した後、土方さんは市中の様子を聞いた。
辻斬り……。
前も確か、祇園四条で辻斬りがあったって聞いたな。
こんなことを聞いたら、食材を買いに行ったりするのが怖い。
「おそらく」
「下手人がまだ分かってねぇのか」
「知らない」
「はぁ……。犯人が分からねぇってぇのは、面倒だな」
私は、ゆっくりと再びその場に腰を下ろし、立ったままの平助君はどこか気だるげな口調で土方さんと話をしていた。
「あの……目撃者とかは、居ないんですか……?」
おずおずと控えめに声を出して、二人に問う。
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