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二人の会話に口を開くと土方さんは、鋭い目を向け、平助君はサッと目を逸らした。
「……その下手人は、若い色男で髪は白髪。その時は、白い着物で刀は黒かったらしい」
「白い着物……」
白い着物と言えば、斎藤さんと対峙していた人が居た。
笠を深く被っており、髪の色や顔までははっきりと見ていないが、白い着物というのがすごく印象的に残っているのだ。
私は、あの時出会った彼のことを思い出して、口を噤んだ。
「もし、怪しい行動やそれっぽい人が居たら、すぐに離れる」
「あ、うん……。気をつけるね」
よく市中へ買い出しに行く私を心配してくれているのか平助君は、そう言った。
その後、平助君は用が済んだと言わんばかりに踵を返すと部屋を出ようとする。
それを引き留めたのは、土方さんの持つ煙管を煙管盆に叩きつける音だった。
カツンッと静かな昼間の部屋に響き渡る。
「待て、藤堂」
「・・・」
「原田にも言ってあるんだが……斎藤の方も注視しておいてくれ」
どうして、斎藤さんが……。
土方さんの口から意外な名前が出て私は、眉をひそめる。
斎藤さんは、辻斬りの犯人かもしれない白髪の青年を追っていた。
確かに個人的に追っているようにも見えるが、新選組でも追っているはず……。
どうして、土方さんが平助君に斎藤さんのことを注意深く見ておく必要があるんだろう。
斎藤さんは、土方さんにとって信頼に値する人だと思っていたけれど……。
土方さんの言葉に平助君は、振り向きもせずに佇んだまま黙り込んでいた。
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