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しばらくの間、沈黙が続いた後にようやく平助君は、私と土方さんの方を向いた。
「斎藤が独断で何かするとでも?」
「あれは……知らねぇ間に自ら突っ込んで行ってしまいそうな奴だ。予防策はしておかねぇとな」
「一応、見ておく」
「頼むぜ」
平助君は、終始曖昧な反応をして、部屋を出て行った。
それを見送った土方さんは、煙管を口に含み、煙を天井に向かって吐く。
あの斎藤さんが土方さんに目を付けられている。
この世界の斎藤さんは、新選組から孤立しているのかな。
私が俯いて考えていると土方さんは、『お前も……』と溜息混じりに話しだした。
「藤田といったか、あいつのことを見張っとかねぇと、仕舞にゃあ戻れなくなるかもしれねぇ。ちゃんと見ておけ」
「藤田さんは……そんな後先考えずに行動する人では……」
「あいつは、真面目過ぎる。それだけに……」
『壊れやすい……』と土方さんは、平助君が出て行った障子を見つめた。
その横顔は、藤田さんのことを考えているというよりかは、他の誰かのことを考えているようにも見える。
「お前らが、この時代に来たのには何か理由があるかもしれねぇ。だが、あまり此処に留まり過ぎても良くねぇと俺の勘が言ってやがる。気を付けろ」
「はい……」
険しい顔をした土方さんに低い声でそう言われて、妙に私は胸騒ぎがした。
不安になり、着物の袂を握り締めて畳の一点を見つめる。
すると、横合いから手が伸びてきたかと思うと……。
「ひ、じか……たさん?」
「心配すんな。俺も出来る限りのことはする。お前は、ただ自分の場所に戻ることだけ考えていりゃあ良い」
「・・・」
土方さんの胸元にしなだれかかるような感じに抱きしめられた。
そして、いつもよりも優しい声で言われる。
それだけで私の不安が少し和らいでいき、ゆっくりと瞼を降ろした。
不安は無くなった。
でも、心臓がドキドキして……なんだか、落ち着かない……ーー。
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