追う者、追われる者

17/25
前へ
/220ページ
次へ
しばらくの間、沈黙が続いた後にようやく平助君は、私と土方さんの方を向いた。 「斎藤が独断で何かするとでも?」 「あれは……知らねぇ間に自ら突っ込んで行ってしまいそうな奴だ。予防策はしておかねぇとな」 「一応、見ておく」 「頼むぜ」 平助君は、終始曖昧な反応をして、部屋を出て行った。 それを見送った土方さんは、煙管を口に含み、煙を天井に向かって吐く。 あの斎藤さんが土方さんに目を付けられている。 この世界の斎藤さんは、新選組から孤立しているのかな。 私が俯いて考えていると土方さんは、『お前も……』と溜息混じりに話しだした。 「藤田といったか、あいつのことを見張っとかねぇと、仕舞にゃあ戻れなくなるかもしれねぇ。ちゃんと見ておけ」 「藤田さんは……そんな後先考えずに行動する人では……」 「あいつは、真面目過ぎる。それだけに……」 『壊れやすい……』と土方さんは、平助君が出て行った障子を見つめた。 その横顔は、藤田さんのことを考えているというよりかは、他の誰かのことを考えているようにも見える。 「お前らが、この時代に来たのには何か理由があるかもしれねぇ。だが、あまり此処に留まり過ぎても良くねぇと俺の勘が言ってやがる。気を付けろ」 「はい……」 険しい顔をした土方さんに低い声でそう言われて、妙に私は胸騒ぎがした。 不安になり、着物の袂を握り締めて畳の一点を見つめる。 すると、横合いから手が伸びてきたかと思うと……。 「ひ、じか……たさん?」 「心配すんな。俺も出来る限りのことはする。お前は、ただ自分の場所に戻ることだけ考えていりゃあ良い」 「・・・」 土方さんの胸元にしなだれかかるような感じに抱きしめられた。 そして、いつもよりも優しい声で言われる。 それだけで私の不安が少し和らいでいき、ゆっくりと瞼を降ろした。 不安は無くなった。 でも、心臓がドキドキして……なんだか、落ち着かない……ーー。  
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

166人が本棚に入れています
本棚に追加