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徳利を片手に持ち、もう片方の手からはアルコールの臭いを漂わせた永倉さんから数歩、距離を取る藤田さん。
少しだけ永倉さんの表情が意地悪だ。
「これも稽古のうちだろ!!斬り合いじゃあ、怪我をしていても刀を落とすわけにはいかんからな!!」
「永倉さん……今は休暇時間でしょう?」
「総一の闘争心には、他の隊士が一目置いてんだぜ!?あいつは、腕が立つようになるってな!!」
「はぁ……やめてください」
ニカッと歯を見せて笑う永倉さんに藤田さんは痛む痣を撫でながら、肩を落として溜息を吐く。
まるで、友人のように話す彼らに私は思わず笑みが溢れ、安堵の息を零した。
全く知らない場所と知らない人ばかりで、不安だらけだったけど……。
永倉さんみたいな人が居れば、少しだけ安心するな。
土方さんや平助君だって、何だかんだで気を遣ってくれてるから……。
最初は殺されるのかとドキドキしたけど、今となっては新選組に住まわせてもらって良かった。
「そういや、佐理!!お前、買い出し頼まれてんじゃねぇのか!?」
「あ……はい。そろそろ行かないと」
「最近、町も物騒だから気をつけろよ」
「ありがとうございます!!いってきます!!」
永倉さんは、お酒の臭いをさせながら、私に近づきながらそう言う。
私は、着物に臭いが移らないように一定の距離を保ちながら頷き、二人に会釈をして、背を向けた。
庭を抜けて表門を潜り、京都の町へと籠を背負って向かう。
昼過ぎの五月の空は、青々としていて雲ひとつなく、綺麗だった。
京都の町へ行くには、田舎を感じさせる左右が田園風景の道を歩く。
空気が澄んでおり、現代とは全く違う雰囲気に時代が違うのだと現実を突き付けられたように感じる。
「いつになったら……帰れるのだろう」
そんなことを呟きながら私は、下がりかけたテンションを持ち上げるかのように京都の町へと足早に歩みを進めた。
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