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「毎度おおきに!!また来てや、お嬢さん!!」
「ありがとうございます……」
お嬢さんと呼ばれる年齢じゃねぇけどな。
京都の賑わう町へと出てきた私は、夕飯に必要な材料を買い揃え、最後の食材を買った。
背中に背負った籠の中に大量の野菜が入り、正直重たい。
まるで十キロほどの米を背負っているみたいだ。
八百屋のおじさんにお礼を言って、再び来た道を戻る。
行き交う人を避けつつ、物珍しい町の雰囲気を見渡しながら歩いていると、視界の端に見知った人物が映り、私は歩みを止めた。
「うん?あれって……」
視界の端に映った人物の方、大通りから建物の間の薄暗い狭い道へと視線を移し、目を凝らす。
沖田さん……?
薄い茶髪で横からの整った顔立ちに見覚えがあり、私は何をしているのか疑問に思い、一歩足を踏み出したが、すぐに動きを止めてしまった。
誰か居る……。
建物の壁に背を預けているその人は、随分と綺麗な女性で沖田さんは、彼女の顔の横に手を付いて、見つめ合っている。
すると、沖田さんが女性に顔を寄せたかと思うと唇を重ねた。
「……っ!!」
薄暗くても分かるくらい濃厚なキスをしていた。女性の薄く開けた口に舌を入れて……見ているこっちが恥ずかしくなるくらいだ。
私は、熱くなってくる頬に挟むようにして両手を添えて、その場から動けずに呆然として見つめるしかできない。
私……絶対、見てはいけないものを見てる!!
この時代の人は、こんな……外で濃厚なキスするの……?
欧米スタイルじゃあるめぇし、ここは日本なんだよ。
私は、今見た刺激的なシーンを忘れようと俯いて首を振り、もう一度恐る恐る二人へと視線を向けた。
濃厚なキスを終えて、銀糸を引いて二人の唇が離れていく。
「ふふっ……口づけだけで気持ち良さそうな顔をしていますね」
「そないな恥ずかしいこと……言わんといて……」
「否定はしない、と……」
「まあ……よく分かってはるんやね」
駄目だ、早く帰って……。
「どうやら、鼠が居るようですね」
「ヤバい……」
どうやら、二人の甘い空間を邪魔してしまったらしい。
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