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藤田総一(フジタ ソウイチ)。
彼は、私達とは比べ物にならないくらい頭も良く、顔立ちも整っている。
少し癖のある黒髪の彼がパソコンを使う時だけ掛ける眼鏡姿にノックアウトする女性社員が跡を絶たない。
逆に地味でパッとしない私は、仕事と家の行き来ばかりでパーマも無くなり、ストレートに戻ってしまっている。
化粧も無難だし……藤田さんとは吊り合わな……、別に好きとかじゃないけどな。
最近は、ストレスが溜まってしまってるのか、心の中で他人に対して毒づいてばかり……。
私も堕ちたもんだ。
藤田さんは、会社では有名人で女性社員からはモテる。
仕事もできるから、先輩方からも好かれている。
「藤田先輩、聞きましたか?来月号で売り上げが上がらなかったら出版停止らしいですよ?」
「ああ……聞いてる」
藤田さんは席に座ると安倍君の話を淡々とした口調で頷きながら、鞄から何か取り出した。
少しだけ、腰を浮かして藤田さんのデスクを覗き込む。
ずいぶんと年期の入った古い冊子だった。
「藤田先輩、それなんですか?」
「これか?これは、昔から俺の実家にあった物なんだが、少し気になる事があって……」
「気になる事、ですか?」
「ああ……」
藤田さんは険しい顔をして、古い冊子を丁寧に捲って目を通している。
その冊子の中身はというと、難しい古文の文字のように見える。
「藤田さん、気になる事ってなんですか?」
「事故をした高校生の子なんだが、その子の名前と、この日記に出てくる名前が一緒で……。やはり同じ人物かもしれない」
自分に言い聞かせるように呟き、眼鏡を掛けて目の前のパソコンで何かを調べ始めた。
「秋月と安倍、今回の記事は俺に任せてほしい。題は幕末で活躍した新選組についてだ」
「新選組、ですか……?新選組は、今までも先輩方とかが題材にしてますし、読者も飽きてきてるんじゃないですかね。どうせなら、今流行りの刀剣とか、どうですか?」
「流行りのものを題材にするのは良いが逆に言えば、注目を浴びているからこそ、詳しく調べる奴が増えるだろう。俺達が調べても結局は同じことで、誰も雑誌を手に取ることはない」
「はあ……」
隣の安倍君が不安そうな顔を見せる中、藤田さんは真剣な表情でパソコンを操作していたーー。
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