《メール》

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『開けて……シマイ、ましたネ…』 真っ黒い背景に、白い文字が浮かび上がる。 そこに書かれていた文字が視界と脳裏に焼き付くまで、数秒もかからなかった。 直視したままの画面から、私は目を逸らすことができず、声すらも発することができなくなっていた。 なぜなら、黒い背景の中央で光る白い文字が、小刻みに揺れていたからだ。 錯覚などではない。 確かに揺れている。 「…あ…ゥ…ァあ…」 携帯を持つ手がカタカタと震え出す。と同時に、声にならない声が、震える息と共に漏れる。 「…ァ…あ…ぁ…な、なんで…」 自分の意識とは無関係に画面を見続けてしまう。 そのうえ、握り締めて決して離さない手。 これ以上見続けてはいけないと、体が警告を発しているにも関わらず、画面を見続けてしまうのだ。 「…ヒィッ」 短い悲鳴が漏れたのは、黒い背景画面が突如として変わったから。 バチッと電気が流れ、小さな火花が目の前で散った。 その一瞬、携帯の電源が落ち、驚いた私は、弾みで携帯をコンクリートの上に落としてしまった。 きっとそれが、最後のチャンスだったに違いない。 携帯を捨てて、逃げていれば、私は確実に助かっていたのかもしれない。 だが、それができなかったのは…。 『…タ…ス……ケ、テ…』 電源の戻った携帯画面に映し出されたもの…。 「……私…なの…?」 小さな画面の中で、こちらへ向かって手を差し延べる自分の姿が映っていたのだ。 「…そんな、馬鹿な…」 ゴクリと生唾を飲み込んだと同時だった。 突如、携帯画面から伸びてきた青白い両手に頭を掴まれ、私は引きずり込まれてしまった。 「…で?その人はどうなってしまったの」 「さぁ…。携帯の中にまだいるかもよ。とにかく、よく分からないメールは開けないこと」 広まる都市伝説の数は星の数に匹敵するほど蔓延している。 どの都市伝説が真実かは、誰も知るはずがない。 真実を語る人物が存在しない。それもまた都市伝説である。
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