最後はふたりぼっち

3/12
前へ
/12ページ
次へ
 何故かと言うと単純な話で、ここは女子高なのだ。同い年の男子連中は、今ごろ血眼になって受験勉強にいそしんでいるのだろうけれど、私たちは違った。良く言えばマイペース。悪く言えば危機感がない。  現に授業中に話が脱線すればするほど私たちは喜んだ。大抵の先生はそれを面白がって付き合ってくれる。たぶん、甘える私たちが変な意味じゃなくかわいいのだと思う。松田先生は、まだその辺の事情が分かっていないのだ。顔は悪くないんだけど……。  そうこうしている内に松田先生のいつものアレが始まった。つまり、解説を黒板に書きながら口を動かす、いわゆる「黒板と会話している」ような状況になる。松田先生はしばしばこうなる。今も森鴎外の『舞姫』について熱く語って書いてを繰り返している最中だった。  教師としては決して褒められた授業形態とは言えないのだけれど、みんな黙認していた。静かに携帯電話を取り出す。このまま五十分の講釈を聞き流すのが私たち流だった。熱中すると、松田先生は自分の世界に入り込むので、私たちとしては好都合なのだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加