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それは普通の迷惑メールとは違っていた。
身に覚えの無い架空請求。
顔も名前も知らない異性からのデートの誘い。
怪しい出会い系やら宗教団体サイトの案内。
至ってありがちな、誰にでも送られる迷惑メール。着信拒否にしようとメアドを変えようと、どこからか漏れた情報で送られてくるメール。もううんざりである。
ピコン
その日は休日だった。家でダラダラしていれば突如鳴り響いたメールの受信音。
最近人気な番組が放送されているテレビ画面から目をそらさず手探りでスマホを手繰り寄せた。
丁度CMに切り替わったので慣れた手つきで画面のロックを解除し、メール受信箱を見れば新規受信メールが一通。差出人は不明。
迷惑メールかと眉をしかめる。
しかし迷惑メールならば迷惑フォルダに自動的に振り分けられるはずだ。
なぜこの差出人不明なメールは平然とそこにいるのか。今となっては不可解でしかないが、当時は「誰かメアドでも変更したのか」と思って何の迷いもなくそれを開いた。
ぎょろり
「ッ!!!?」
本文いっぱいに貼り付けられたやけにリアルな目玉のデコ文字。
ギョロギョロと不規則な動きで周囲を見渡す目玉に息を呑んだ。何だ、これは。
呆然とメールを眺めていれば、突然全ての目玉がコチラを向いた。思わず喉から引き攣った声が漏れる。目玉はしばらくコチラを向いていたが、数秒後一斉に瞼を下ろした。
《お前じゃない》
まるで、そう言われているようで。何がどうなっているのか分からずにメールを凝視すれば今度は勝手に転送されはじめた。
慌てて「転送しています」の通知にキャンセルを押すも全く反応なし。混乱している間に登録されているメアド全てに謎のメールが転送されてしまった。
すぐに送信メールを確認するがメールが送信された記録はない。受信メールも見るがあのメールは跡形もなく消えていた。
何だったんだ。
CMが終わるまでのたった1分の出来事だった。
数日後、同じメールを見た友人が失明したという。そのメールもまた勝手に転送されたらしい。
ただ、友人の場合は目玉が自分を見た直後に嬉しそうに目を細めただとか。
あのメールは、この広い電子空間のどこかを今も漂っているのだろうか。
メイワクメール
《目 いわくメール》
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