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「東京への定期便かい?」
すっかりなじみになった局員は切手を出しながら軽口を叩いた。
「うん、そうなの」
「普通でいいね」
「ううん、書留で、速達で! 少しでも早く届くように、お願い!」
「随分とせっかちだねえ」と、局員は笑った。
根雪のようにうず高く積もることはないが、そこそこの雪で覆われる地元。
その雪が積もる前に列車が滞らないうちに来ればいい、という父からの伝言は、幸宏に過たず伝わった。
電報一声、『トドイタ、デンワスル』
電報の到着を見計らったように、幸宏から電話が来た。滅多に使われない受話器のベル音は家中響いた。じたばたと受話器を取った幸子は名乗るのも忘れた。
幸宏の方も名乗ることなく、開口一番こう言った。
「週末の晩、発つ。翌日、午前中には着けるよ」
簡潔にして明確な、彼のメッセージだ。
「迎えに行くわ」
「時間が読めないと困るから、直接君の家へ伺うよ。寒くなっているし……」
「待ってます」
さっちゃん、とつぶやく声はかすれて、彼の心を伝えてきた。感動しているのだ。
「温かくするんだよ、いいね」
切れた電話の発信音をいつまでも聞きながら、短い言葉のやりとりを何度も自分の中で反芻した。
待ってる、あなたが来るまで。ホームで。
きっと寒さも感じないわ。
「週末だね。泊まっていくのなら、客用布団を用意しないとね。明日、必ず晴れるかわからないよ」
母は放っておくといつまでも受話器を離さない娘の後ろ姿に声をかける。
うん。やる。仕度も迎えも全部やる。
少しの間だけ。たった今まで電話の向こうにいた幸宏を忍ばせて。
受話器に頬を寄せる。久方ぶりに聞く彼の声は、変わらず温かかった。優しかった。
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