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「ううん。大学の講師をやってるわ。いずれ教授を目指すって」
「おやまあ、末は学者か博士様になるんだね。いずれにせよ、相当賢い人なのだろうねえ……。うちで釣り合いとれるのかね。いいところの家の人は、格式が高い分気苦労が多いと言うよ。うちが悪いというわけではもちろん無いけど、あんたも自分から望んで、難しい方ばかり行こうとするんだねえ。相手の男も物好きだよ。傷物をあえて選ぼうとするんだから」
「うん……」
僕を信じて、と何度も言い含める幸宏を思い浮かべた。
彼はきっと、母が言うような女の側がする心配をほとんど、あるいは全く理解しないだろう。
それが何だい? と意に介さず、自分の我を通す。
過去は巻き戻せないのだから、明日を見よう、ふたりで生きる日々に思いを馳せよう、と言う。
その通りよ、私も、へこたれている場合じゃないわ。明日からがんばろう、父さんに話を聞いてもらおう。
意を決して見上げた天井の木の幹が作り出す模様は、幸子が知るうねりをいくつも紡ぎ出していた。
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