【12】帰還 

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◇ ◇ ◇ 実家では、顔を合わそうとしない父に朝夕の挨拶をし、何度も無視され、日をまたぎ、次の朝を迎えた。 食事はひとり台所の板の間でとる。 季節だけは着実に秋へ、そして早い冬へと移っていくのに家の中の時は止まったままだ。ややもすると落ち込んでしまうけど、寝食が許されるだけましだわ、と気分を切り替えた。 庭を掃き掃除し、わずかに残った雑草を摘みながら、幸宏の家や彼の実家でも同じことをしたと思い出した。 幸子が庭に出ると、彼も縁側にやってくる。 本を片手にいつものように書き物をしているようでいて、その実、ちっとも筆は動いていない。 利き腕を怪我しているのだから仕方ないけど、何してるのかしら、見てるのかしら、と振り返ると、いつも彼と目が合った。 じっと見つめられていたり、たまたま本から顔を上げた時だったり。示し合わせたように瞳を交わした。お互いに和らぐ視線が温かく、愛は確かに存在すると信じたくなった。 全幅の信頼を寄せる瞳を私は知ってる。 以前も同じように私を見てくれた存在があった。 懐かしさより胸の痛みの方が勝って、思い出さないように記憶に蓋をしてきた。 コロ。 むくむくした毛に、くるりんと巻いた尻尾。 濡れた黒い鼻先をいつも押しつけてきて、振り切れんばかりに尻尾を振って出迎えてくれた。 いつも話を聞くよ、という目をして側にいた。 同じ温かさを与えてくれる幸宏。 コロは失われてしまったけど、あなたを今の私から消すことはもうできないわ。
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