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ポン♪
そっけない着信音がした。
通勤ラッシュでごった返す駅のホームで、人ごみに流されながらスマホを取り出した。
滅多に使わない携帯メールに着信のマークがついている。
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【件名】確認お願いします
【本文】
ムカイ
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ムカイ? 誰だっけ?
と思う間もなく、登り方面のホームでドンッという音に続いてギギギギ――ッという不快な電車のブレーキ音が鳴り響いた。
凍りつく一瞬ののち、大勢の悲鳴が続いた。
飛び込みだ。
パニックが周囲に伝播してゆくのは早かった。
まさに阿鼻叫喚だ。
私は逃げるようにその場を後にした。
朝から飛び込み自殺の現場など、絶対に見たくない。
少し遠回りになるが、地下鉄で会社に向かおうと、JRのホームを後にした。
しかし、そう思ったのは私だけではないようで、大勢の人が逃げるように地下鉄方面に流れてゆく。
ポン♪
今の騒ぎですっかり忘れていたが、地下鉄の階段を下りようとしたところで再びスマホが鳴った。
―――――――――――――
【件名】確認お願いします
【本文】
ミギナナメマエ
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やっぱり意味が分からない。
送信元も見知らぬアドレスだ。
メールを読むためについ鈍くなった歩みのせいで、人波に肩を圧されて階段でふらついた。
誰かが短く舌打ちする。
「すみません」
口の中で小さくつぶやきながら、慌てて周囲の歩調に合わせたところで、前を行く人波が突然大きく歪んだ。
あっ!
うわっ!!
きゃああああ!!
うわああああ!!
将棋倒しだった。
階段で足を滑らせた誰かが、すぐそばにいた誰かをとっさに掴んで巻き込んだのだ。
あっという間の出来事だった。
十数人が階段下で血を流しながらうめいている。
思わず絶句する。
しかし、幸いにも巻き込まれずに済んだので、申し訳ないと思いつつ、私はその場を素通りした。
大手メーカーとの打ち合わせがある。
今日は遅刻するわけには行かないのだ。
それに、私などがどうこうしなくとも、声を掛け合いながら、バタバタと走り回っている人がすでに何人もいる。
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