第1章

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なんとか会社の最寄り駅に到着し、地下鉄の階段を上がって地上に出た。 どんよりと曇った空の色はいかにも不吉で、今日の陰鬱な一日を予告しているかのようだ。 向かいのホームで起きた飛び込みと、目の前で起きた地下鉄の階段で起きた将棋倒しについて、ネットで情報を確認せずにはいられなかった。 公共のニュースになるにはまだ時間がかかるだろうが、SNSなどで誰かがつぶやいているかもしれないと思ったのだ。 案の定、駅名検索しただけでことが足りた。 ――ヤバい! 今OLが飛び込んだ! ――血が! 血がぁぁぁ!! ――やべえええ、朝から見ちゃったよ~~! ――地下鉄の方で将棋倒しだって! 今、乗換口閉鎖されてるぞ! ――救急車の数半端ねえ!! ――手首がホームに飛んできたって!! ――目の前のオッサンが動かねえよぉぉ! ――首どこ!? 大混乱だ。 悪ふざけを含むすごい数のコメントが次々にアップされている。 ポン♪ 再び着信だ。 ―――――――――― 【件名】確認お願いします 【本文】 ミギトナリ そして続けざまに次のメールが届いた。 『ヒダリナナメマエ』 ??? もしかして、右隣と左斜め前? 方向のことを言っているのか? 間違いメールだろうか? スマホをながら見していたので、うっかり赤信号の横断歩道を渡ろうとして危うく気付いて立ち止まった。 ところが、私と同じようにスマホのながら見をしていたすぐ横のサラリーマンが、私の動きにつられて2・3歩前に進んでしまった。 あっという間もなかった。 キキキキキ――――ッ!!! 明らかにスピードを出し過ぎた赤いスポーツカーが、前に飛び出したサラリーマンをひっかけ、運転を誤ってそのまま交差点の角に建つコンビニに突っ込んだ。 ガシャーーンッ!! コンビニの前を歩いていた人と、店内の人々を巻き込み、車は辺り一帯を大破させて停まった。 ひっかけられたサラリーマンがどうなったのかは、考えたくもない。 もしかして、私のせいなのか――!? ガクガクと震える膝を必死で動かしながら、私はその場を逃げるように後にした。
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