第1章

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先ほどから何度か送られてくるメールは、おそらく、私のすぐ身近に起きる事故の方角を示している。 『ムカイ』は駅のホームの向かいで起きた飛び込み自殺。 『右斜め前』で起きた地下鉄の将棋倒し。 『右隣』のサラリーマンがスピード違反の車にひっかけられ、『左斜め前』の交差点に建っていたコンビニは大破した。 そして―― ポン♪ 着信の音が鳴る。 『ヒダリナナメウシロ』 ポン♪ 『ミギナナメウシロ』 着信音が響くたびに、私の周囲で聞き慣れない不吉な音が響き、人々の悲鳴や怒号が後に続く。 ポン♪ もうスマホの画面を見るまでもない。 『向かい』は『前』と言い換えてもいいだろう。 『右斜め前』 『左斜め前』 『右斜め後』 『左斜め後』 とくれば 残りは『後ろ』だけだ。 私は恐怖でその場に凍りついた。 一体、誰が何のために――!? これほど短い時間の中で、私を中心に無残な事故が巻き起こっている。 わけのわからない恐怖が全身に絡みつき、身動きができない。 通り過ぎる人々が、私を怪訝な目で見てゆく。 チリン♪ 聞き慣れない着信音がして、前から歩いてくる若いOLが立ち止まり、スマホの画面を見ている。 OLの唇が小さくつぶやいた。 「マエ?」 怪訝な表情で顔をあげたOLと目が合った。 そのとたん、私の全身にすごい衝撃が走った。 メールを受け取ったOLと私の間に、土混じりのグシャグシャになった植木鉢が転がっている。 そこに私の血がゆっくりと混じってゆく。 彼女の『前』にいた私の頭に、マンションの上階から落ちてきた植木鉢が直撃したのだ。 そうか、『ここ』があったのだ――。 そうなると、もうメールは来ないのだなと思った時には、何もわからなくなった。 ――了――
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