第一章

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 トイレへ行って戻ってくると「そろそろ時間だね」と言われたので席をたつ。会計を済ませる為、レジに行こうとすると手首を引かれた。 「なんですか?」 「もう済ませてあるから。」 「・・・は?」 「ほら、いくよー。」  困惑している内に手を引かれカフェを出た。 「僕の分、いくらでした?払います。」 「良いよ良いよ。今日は俺に付き合ってもらってるし、お礼だと思って。」 「お礼もなにも僕も行きたかったのでお礼じゃないです。いくらですか。」 「はは、頑固だね。」  譲らずにいると困った顔をさせてしまった。そんな顔をさせたいわけじゃないのに。 「・・・ありがとうございます。」 「ん、どういたしまして。」  どうやら僕はこの人の困った顔が苦手なようだ。  この人には笑っていて欲しいと、思った。  それからサイン会に行き、作者の話を聞いてサインをもらいほくほくして帰宅した。  帰り道、送っていくと言われた時はさすがに焦った。気持ちだけ貰っておくことにして、断った。  やはりというか、家には誰も居なかった。  さっきまでの温かな気持ちがすーっと薄れていく。  それに気付かないふりをしてシャワーを浴びてベッドへ横になる。  ふ、と今日の事を思いだした。  今日は有意義で、とても満たされた。  しかし会計の時や、帰り道での事がどうにも引っ掛かる。  とても慣れている、と思った。  そこで疑問がわく。何故、引っ掛かるのか。  あの人に恋人が居ようがいまいがどうだって良いじゃないか、僕には関係ない。  だってあの人は男で僕も、男だ。あり得ない。あり得ないのに、関係ないのに心臓がぎゅっと萎縮したように感じたのは何でだろうか。  嗚呼、嫌だ。本来あまり悩むことが得意ではないのにぐるぐる思考がめぐる。  学校に行ったら友人に聞いてみるのもいいかもしれない。  心の中でそうしよう、と言い聞かせるように呟いた。  もう寝よう。目を閉じる。 「・・・あー!もー!」  目を閉じると浮かぶのはあの人の困った顔と、笑顔だった。  その日、中々寝付けなくて翌日くまをこさえることになってしまった。
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