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木暮に相談して、自分の気持ちに整理をつけるのには十分な時間だった。
一ヶ月、あの図書館に行かなかった。あの人にどんな顔をすれば良いのかわからなかった。
「はぁ。」
「どしたー?」
「あの人にどんな顔すればいいかわかんない。」
「あー、柚子が片想いしてる人?」
「ち、・・・がくないけど。」
「ふふん!さり気ないボディータッチをすれば良いんだよ。そしたらきっと向こうも意識してくれる!・・・たぶん。」
木暮の信用ならない助言に口角が引きつる。だいたいそんな事をして引かれでもしたら基もこもない。
しかし一ヶ月も会っていないと寂しい。恋はこんな思いもさせるものなのか、と少し他人事のように関心してしまう。
「お前ら席につけー。」
どうやら担任が来てしまったようだ。間延びした語尾がなんとも気だるげだ。
「まあ、話すときちゃんと目を見るのも良いかもな。お前、恥かしくなったりするとすぐ目線そらすから。」
「は?!」
そんな爆弾を落として飄々と席に戻る木暮が恨めしくなった瞬間だ。
しかし自分にそんな癖があるとは思いもしなかった。今後改善しよう。そう心に秘めて教師のダルそうな話に耳を傾ける。
全ての授業が終わって、久しぶりに図書館に行こうと思ったが思いとどまった。
今日は集めているシリーズ小説の最新刊が発行される日であったのを思い出した。
予定変更だ。このまま本屋に向かうことにした。
目的の本屋は古書も取り扱ってる、穴場だ。その本屋に人が居るところを僕は見たことがなかった。
「あった。」
そっと目当てのものを手に取り、視線をなんとなく窓の外へ向けた。そこに見えた光景に目を瞑りたくなった。
反対車線の歩道を綺麗な女性と歩いているあの男は笑顔だった。どう見ても美男美女でお似合いだ。
胸がズキリと痛んだのを無視してレジに本を持ってさっさと本屋を後にした。
これは失恋になるのだろうか。心臓が痛くて痛くて涙が出てきそうなのをぐっと堪えながら家路についた。
その日、僕はあまり寝れなかった。
今週の休日に図書館に行こうと決意していたものが早くも崩れそうになっていた。
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