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「じゃあドライブに行こう!」
「・・・ドライブ?」
身構えていたらドライブに誘われた。少し拍子抜けだ。
この男の考えている事がまったくわからない。
知らずに眉間にシワを寄せていたようだ。
男がトントン、と自分の眉間を指差した。
「どう?」
こんな目を輝かされて否と答えられないほどに、僕はこの人に惚れ込んでいたのを自覚した。
その瞳に影をさしたくない。
「行きます。」
「なら入り口で待ってて。車まわしてくるから!」
男はそそくさと荷物をまとめ読み途中であったろう本を棚に戻し、図書館から出ていった。
行くと言ったもののどうすればいいんだ。心臓がドキドキ煩い。
折角静まってきたのに、これじゃあ休まる時がないではないか。
ぐちぐち考えるがそれに反して心地よいとも感じた。
言われた通り入り口で待っていると黒のセダンが目の前に停車した。
助手席の窓がゆっくりと下ろされる。
そこからはあの男の顔が見えた。
「乗って。」
「お邪魔します。」
「はは、なんだいそれは。」
男はとても楽しそうだ。
僕がシートベルトをカチン、としめるのを見て車がゆるやかに動き出した。
「あの・・・」
「なに?」
「お名前、聞いてもいいですか。」
車のエンジン音でかき消されそうな声だったと思う。
「まだ名乗ってなかったね!高木靖秋だよ。」
「やすあき、さん。」
そっと呟く声はどうやら彼、靖秋さんには聞こえていなかったようだ。
「きみの名前は?」
「川島柚子彦です。」
「柚子彦くん、て呼んでもいい?」
「はい・・・」
彼に名前を呼ばれただけで心暖まるのと同時に羞恥におそわれた。
心臓がはちきれそうだ。
「あ・・・」
「どうした?」
幸せな気持ちに浸れば浸るほど、一ヶ月前の綺麗な女性と彼の光景が甦り、キラキラした気持ちがパクリと飲み込まれる。
「僕、一ヶ月前に高木さんを見掛けたんです。」
今までこんなに緊張をしたことがあるだろうか。
勇気を振り絞って出した声は情けないことに震えていた。
思わず目線が流れる景色から自分の膝に落ちてしまう。
「んー、どこで?」
「・・・本屋の通りの反対斜線を歩いていました。夕方で・・・綺麗な、女性と。」
僕の支離滅裂な言葉を理解したのか、靖秋さんは暫く考える素振りをしていた。
どのくらい時間が経っただろうか。僕はとても長い時間に思えた。
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