第二章

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 信号が青にかわったのか止まっていた車が再び動き出した。 「夕方・・・あっ」  夕方に外を歩くなんていくらでもあるだろうに彼は思い出したとばかりに声をあげた。 「たぶん、妹が会社にきた時かな。」 「いもうと?」 「そ、いもうと。まぁ・・・色々あって駅まで送ったんだよ。」 「そうだったんですか。」  靖秋さんには妹が居るそうだ。  それを知って一気に脱力感に襲われた。  そこでふ、と思った。この流れなら恋人の有無も聞けるのではないだろうか、と。  さっきの質問なんかより断然簡単だ。 「高木さんは、恋人・・・いるんですか?」  もし恋人がいたら?  脳内で再生された、略奪愛という木暮の声。  それを否定するように頭をふって脳内から削除した。 「はは、どうしたの?」 「あ、いや、何でもないです。・・・あの、さっきの質問は。」 「ああ、恋人?今はいないかなぁ。」  いない。彼ははっきりとそう言った。  それならまだ自分にもチャンスはあるのではないだろうか。  しかし、彼は男同士なんて気持ち悪いと思うかもしれない。いや、普通ならそう思うはずだ。  きっとまだ言うべきではないのだ。  もっとお互いを知って、それからでも遅くはない。  そう思うのと同時に学生と社会人で、更には会う時間も、連絡先も知らないのに何で余裕こいていられる?という悪魔の囁きが聞こえた気がした。 「帰り、遅くなるかもしれないけど親御さんに連絡しなくて平気?」 「殆ど家に居ないんで平気です。」 「・・・そっか。」  それから暫く沈黙が続いた。  けれどそれは嫌なものではなく、とても温かなものだった。  途中、コンビニに車を寄せて高木さんは車を降りていった。  トイレは?と聞かれたが平気だったので遠慮することにした。 「はい、これ。」  ボーッとしている内に戻ってきた高木さんの手にはビニール袋がぶら下がっていた。もう片方の手には緑茶のペットボトルが握られている。 「ありがとうございます。」 「どういたしまして。」 「っ!」  ペットボトルを受けとる時に微かに触れた指先に驚いてしまったが平静を崩さなかった僕は凄いと思う。  触れた部分が熱を帯びたようだ。  それを誤魔化すようにぐいっと緑茶をあおった。
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