第二章

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「そんなに喉渇いてたの?あ、ほら。」  ペットボトルを口から離した瞬間口の端から雫が落ちる。慌てて拭おうとするよりも高木さんの方が早く、ゴツゴツとした指に雫がさらわれた。  ぶわり、と身体から蒸気でも出るんじゃないかと熱に支配される。  堪えきれなくて俯くと、彼は何を勘違いしたのかごめんね、と謝ってきた。 「び、びっくりしただけです!謝らないでください。」 「・・・ははっ!そっかそっか!」  自分がこんな大きな声を出せたのだと、今知った。  靖秋さんと居ると知らない自分を知る。 「さ、行こうか。」 「はい。」  新たな発見をしてからまた暫く車を走らせる。そろそろ夕方だ。  夕陽に照らされる靖秋さんは普段の何倍も綺麗で、かっこよかった。 ・・・・・・  車が止まった場所は海に面した丘だった。  夕陽が水面にキラキラ反射して幻想的な風景だったが周りにちらほら居るカップルが気になってしまうのは僕が片想いをしているからだろうか。  その証拠に靖秋さんは気にした様子がない。 「あのシーンに似ているだろ?」  きっと彼はサイン会に行った際、購入した本のワンシーンの事を言っているのだろう。  確かに、似ていた。 「この景色見てると疲れがとぶんだ。俺の特別。」  どくん、心臓が大きく鼓動した。  特別、という言葉はとても甘美な響きに聞こえた。 「特別、なのに僕に教えても良かったんですか?」 「柚子彦くんにも見てもらいたかったから良いんだよ。」  この人はどんどん僕をがんじがらめにしていく気なのだろうか。  好き、という感情が際限なく溢れてしょうがない。  何だか無性に泣きたくなった、と、思ったそばから頬に水滴がたれた。  気が付かれないようにそっと涙をぬぐった。 「だ、大丈夫?!」  ばれた。  目敏いな、と思いながら目にゴミが入ったという。 「見せて。」 「は?!え、いや、平気ですから!」  離れていた分の距離を一気に詰められ、頬をゴツゴツした男らしい両手で包まれた。身動きがとれない。  動きのはやい心臓の音が聞こえてしまいそうだ。  だんだん近づいてくる顔に目がはなせない。
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