第二章

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 むにっ、と涙袋をしたに引っ張られる。 「んー、やっぱ暗いから見えないや。痛い?」 「も、もう大丈夫ですから・・・」  弱々しく言うと納得行かない顔のまま手が離れていった。  はやく離れて欲しいと思ったのに、いざ離れるとまた触れたくなる。もっと触れて欲しい。  俯いていると頭部にぽん、と何かがのった。  そっと顔を上げると靖秋さんの温かい手だとわかった。 「なん、ですか?」 「んー、なんだろうね?」  逆に聞き返されてしまった。  その手はわしゃわしゃと僕の髪の毛を混ぜる。 「誰も見てないから。」 「え・・・」 「俺も見てない。こうすればいい。」 「う、わっ」  髪の毛をまぜていた手が肩を通り越し二の腕をつかまれたと思ったら思い切り靖秋さんの方に引っ張られた。  勢いあまって鼻を彼の胸板にぶつけてしまい少し痛い。  でも彼のぬくもりと二ヶ月越しに会えたのとで心のなかはぐちゃぐちゃになって、やっと止まったと思った涙はまた流れ始めた。  僕だって男なのに、泣くのは何だか悔しいと思った。 「鼻水・・・っ、ついちゃいます、よ。」 「別に鼻水なんていいよ。洗えば済む。」  そんなかっこいい事言われたら何もかもさらけ出してしまいたくなる。  涙と鼻水と嗚咽をもらしながらそっと靖秋さんの背中に腕を回して泣いた。  靖秋さんは僕が泣き止むまで赤ん坊を寝かしつけるような優しい手つきで背中を一定のリズムで撫でてくれた。 「すみません、ないちゃ・・・て・・・どうしたんですか?顔、真っ赤ですけど・・・」 「な、なんでもない!もう遅くなっちゃったから帰ろう!送ってくよ!」  僕が言葉を発す暇を与えることなくそそくさと車の方向へ足を向ける靖秋さんに疑問しか思い浮かばなかった。  帰り道はどうしてこんなにはやく時間が過ぎていくのだろう。  僕の案内で家まで送ってもらった。 「今日はありがとうございました。・・・見苦しいものも、ごめんなさい。」 「え、いやいや!気にしないで!」  なんだか空気がドギマギしてしまう。  僕が早く車から降りれば良いんだ。でもまだ、もう少しだけ一緒に居たい。  でもいつまでも車に乗っていたら靖秋さんは帰れないだろう。  そっとシートベルトを外してドアを開けようとしたらデジャヴ。  運転席側、右腕を引っ張られシートに逆戻りしてしまった。
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