第一章

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 高校三年生になって初めての中間テストの前日だった。  いつも静かな図書室は昨日までこんなに生徒で賑わっていなかった。  勉強などしないで、世間話や噂話などに花を咲かせる馬鹿共を視界に入れると何でか汚される気分になりその喧騒から逃げるように学校を出た。  近くにある大きな図書館に向かうことにした。  勉強など普段の授業をしっかり聞いていれば赤点などとらずにすむ。はたしてあの馬鹿共の中にその事に気がついているのはいったい何人か・・・。  そこで考えるのをやめた。そもそもいきなり図書室で勉強なんてし始めるのはどいつもこいつも授業をしっかり聞いていない証拠に他ならなかったからだ。 「あほらし・・・」  小さく呟いた自分の言葉は人の波に飲み込まれて静かに消えた。  学校を出て、徒歩で15分程歩いただろうか。目の前には決して大きくはないが、しかし小さくもない図書館が佇んでいた。  こっちの方まできて態々勉強るす奴なんてあの中にはいないだろう。否、そう思いたかった。 ━ギィ  小さく軋んだ扉の向こうから年季の入った紙の匂いがしてくる。その匂いに苛立っていた心が落ち着いていくのが分かった。  さっそく、一番奥の席を陣取るように可愛らしいウサギのリュックを椅子の背もたれに掛けた。  今日は何を読もうか。  知らずの内にウキウキしている。しかしそんな自分の事を嫌いとは思わなかった。 「ファンタジー・・・」  無意識に口から零れた言の葉はきっと心の奥底で読みたいと思っていたジャンルなんだろう。そう決め付けてファンタジーの置いてある棚を探した。  あまり長いものだと色んなものが読めないから短いものを手に取り、ウサギのリュックが待っているであろうテーブルに戻る。  それを何度か繰り返していると、いつの間にか空は少し暗くなってきていた。  あと一冊読んだら帰ろう。  そう決めて再び本を選別し、手に取って席に戻るとウサギリュックと目線の交わらない斜め前のところに座っている体格の良い、スーツを着こなした男が座っていた。  もちろんここは図書館なのでその男の手には本が鎮座している。 「あ・・・」  その本は何冊か前に自分が読んでいた本と同じでつい声が漏れてしまった。 「ん?」  これが僕、川島 柚子彦とスーツの男、高木 靖秋の出会いだった。
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