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「この本、君も読んだことあるの?」
思わず出てしまった自分の声に羞恥を感じて俯いていると、目の前の男は耳に心地よい声色で話し掛けてきた。
自分の長い前髪越しにかち合う目線が何故だか逸らせなかった。
「・・・さっき、読みました。」
やっとの事で出た声は情けない程小さなものだった。
しかし斜め前に座す男は少しもそんな事を気にしている風でもなく、ただ口角を上げて「そうなんだ」と、一言こぼすだけだった。
かち合っていた目線は外され、手元にある本へうつっていた。
話し掛けてきたわりに、あまりにもあっさりと視線が外れてしまった事に拍子抜けしてしまった。
ウサギのリュックが引っ掛けられている椅子をそっと引き、座る。
それから先ほど本棚を物色して得た本を開き文字に集中した。
・・・・・・
どのくらい本に浸っていたのか分からない。しかし本から意識を周りに移したのはまたしても斜め前に座していた男だった。
この男は何故僕の隣に立っているのだろう。
そんな疑問を感じ取ったのか閉館時間ということを教えてくれた。
「ありがとうございます。」
「いいえ。君はたまにここに来るの?」
「たまに、ですかね。お兄さんはよく来るんですか?」
普段の自分では考えられないほどにすらすらと言葉が出てくる。
この男だからなのだろうか、とも思ったがそこで考えるのをやめた。
「俺もたまに、かな。仕事してるから休日とか。」
「・・・そうなんですか。」
そこでリュックを背負って読みかけの本を片手にカウンターへ行く。
後ろから男もついてきた。
カウンターで受付をしている人に本を渡すと横から「またね」という声が聞こえてきた。
「また・・・」
意識したわけでもなく自然と出た言葉だった。
それから直ぐに貸し出しの認証が終わった本を手渡され図書館をでた。
空はすっかり夜空でそまっていた。
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