第一章

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 図書館であったことは帰宅する前には忘れていた。  帰宅して、リュックを自室のデスクチェアに引っ掛けてから部屋着に着替える。  階段を降りてキッチンに行くとコップに水を注ぎ、一気に飲み干す。  喉が渇いていたのか水が体に染み込んでいく感覚がした。  視界の端にはラップのかかった一人分の夕飯がぽつんと佇んでいた。  それを見ても何も感じなくなってしまったのは小さい頃から眺めていた光景が当たり前になってしまったからなのか、自ら考えないようにしているのか。  それは自分自身でもわからなくなってしまった。  ただ解るのは、今日も両親は仕事でこのだだっ広い家に自分しか居ないって事だ。 「いただきます。」  両手を合わせて、小さく言う。  ハウスキーパーが作ったご飯はいつも無難な味だ。  これを家族で囲んで食べたのならきっととても美味しく感じるのだろう。  ゆっくり箸を進め、全て残さず食べた。  その食器をシンクに置いて水に浸しておく。こうすればきっとハウスキーパーの彼女も僅かではあるが楽に洗物ができるだろう。  それからお風呂に入って歯磨きをして後は寝るだけだ。  自室に戻って、リュックにしまってあった本をとりだしふかふかのベッドに体を滑り込ませる。  読みかけのページを開いて物語に集中した。 ・・・・・・・  カーテンの隙間から入り込む眩しい朝日で目を覚ました。  枕元には開きっぱなしの本があった。  支度を済ませ、誰も居ない家に「いってきます」と、声をかける。  当たり前だが返事が返ってくることはなかった。  鍵をきちんと閉め通学路を歩いて学校へ行く。  教室に入ると昨日の図書室のような喧騒が充満していた。 「川島、おはよ。」 「おはよう。」 「今回のテスト、どうよ?」 「いつも通りだよ。」  そう返すと「ちぇっ、また学年五位以内か」と言われた。  君だってちゃんと授業中爆睡していないで先生の話を聞いていればそんな事思わなくても済むのに、とは言えず「がんばって」と、軽く流すことにとどめた。 きっと今日も図書室はあの煩わしい喧騒に塗れているのだろう。ならば必然的にあの図書館に行くしかない。  しかしそれは自分にとって至福の時間の何者でもなかった。  滞りなく試験は終わった。  
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