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いつもなら静かな図書室に向かう足は反対方向にのばされ、学校の校門をくぐった。
図書館に着いて、前日と同じ場所に席に座し、リュックから読みかけの本を出して読み始める。
本は別世界に連れてってくれる魔法。
この汚い世界から連れ出してくれる、それがたまらなく好きなのだ。
読み進めるとあっという間に後書きのページになった。そこでそっと本を閉じる。
「ふぅ・・・」
一息ついて、凝り固まった筋肉を弛緩させる為に両手を上げ伸びをする。そこから一気に力を抜くと両腕がだらりとおちた。
読み終わった本を受付カウンターに持って行き、返却を済ませ、そのまま新たな本を探しに本棚の迷路に足を進める。
今日は何を読もうか思案していると真っ赤な背表紙が目にとまった。
それは一際目立つもので、血の色の赤だった。
背表紙をそっと撫でてから指をつっかけ引き抜くと、古いものなのか白紙の部分が少し黄ばんでいて味のあるものに見えた。
さっそくその真っ赤な本を手にもち、定位置は腰をおろし、本を広げた。
とてもわくわくしているのがわかる。さぁ、これはどんな物語なのだろうか。
・・・・・・
ぱたん、本を閉じる音が静かに響きわたった。
本の内容は、残酷で綺麗で、とても不可解だった。
時代背景はファンタジーで両親も、友達も、親戚もいない少年が一人で生きていくには体を売るしかなくそんな事を繰り返していた。そんな生活が続いたある日、一人の女性と出会う。彼女はとても綺麗だった。言葉も、声も表情すら優しかった彼女に対し孤独な少年は恋愛感情を抱かずにはいられなかった。何もせず、ただおしゃべりをして過ぎて行く時間が幸せだった。しかし彼女には旦那がいて、その旦那にこの逢瀬がばれてしまう。少年は旦那に引きずられるように彼女の家でもある屋敷に不本意な招きをうける。旦那は妻を少年のいる地下へ呼びつけ、彼女の前で少年は旦那に犯されながら殺されたのだ。文面から伝わってくる苦しさ、切なさ、しかし彼女の悲痛な叫びと、綺麗に流れる涙が少年を救った気がした。少年は旦那を恨まず、世界を憎まず、ただただ彼女を愛して死んでいったのだ。
わからない、その一言に尽きた。
なぜこの少年はここまでの仕打ちを受けながらも恨まず、憎まず、彼女を愛していられたのか、自分が恋というものを知らないからなのだろうか。
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