第一章

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 中間試験が終わり、答案用紙が全て返却されてからも図書室へは行かず、今だあの図書館へ通う毎日だった。  存外、自分はあの静かで独特な雰囲気を気に入ってたらしい。  今日も例に漏れず、休日ではあるが図書館へと足を向けた。 「あ・・・」  デジャヴである。  前回と同じ、自分の定位置の斜め前に座って本を読んでいる、スーツではなく私服の男がそこに居た。  そっと上げられた目線が絡まると男は口角を少し上げて「やあ」なんて言ってきた。  無視をするわけにもいかないのでその時間帯にあった挨拶を返す。 「久しぶりだね。」 「そう、ですね。」  何故か言葉が詰まってしまった。  嗚呼、嫌だ、と、思った。この男と話していると何故か自分のペースがかき乱される感覚に陥る。 「今日は何を読むの?」 「これから物色してきます。」 「そうなんだ。好きなジャンルは?」  よくもまあ次から次へとクエスチョンが出てくるな、と関心してしまう。  今から物色に行く、と言ったのに質問されていては本棚にすら踏み込めないではないか。  少し苛々しながらも「色々です」と返す。  するとこれまたデジャヴ。一言で終わった。  やはりこの男といるとペースが乱されてしょうがない。  苛々を無かったものにして、本棚に囲まれることにした。  借りようとした時になかった本が元の位置に納まっているのを見つけた。  二週間も、誰が借りていたんだ。きっとのろまな奴に違いない。  その本をそっと手に納め席に戻る。  今度は男の方から小さな「あ」という声が聞こえてきて目線をそっちに向けると彼の目線は自分の手元にある本に向けられていた。 「その本、今日返したんだよ。」 「・・・・」  どうやらのろまな奴は斜め前に座っている男だったらしい。 「そうなんですか。僕、この本気になってて結構待ったんです。」  少しくらいの嫌味、良いだろう。  この男は不機嫌な、嫌な、不愉快な顔をするだろうか。そんな期待をしていたのに、あろうことか今まで見た口角を少し上げるものではなく眉を下げて可笑しそうに笑った。 「ふふ、ごめんね。返しに来る暇が中々なくて。」 「・・・いえ。」  自分の浅はかが浮き彫りになったみたいで恥かしい。  二度目の出会いは自分の懐の狭さを思い知った。
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