第一章

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 翌朝、目が覚めリビングに行くと父が珍しく帰ってきたのか新聞を広げていた。 「父さん、おかえり。」 「ただいま。柚子彦、座りなさい。」  言われるまま父の目の前のソファーに腰をおろす。ソファーが静かに少し沈んだ。  広げていた新聞をガサガサ音をたて閉じられるとまっすぐに見詰められ、緊張が体を硬直させた。  小さい頃から全てを見透かされる様な気持ちをおこす、この目線が苦手だった。 「なに?」 「お前、卒業したらどうするんだ?」 「就職するよ。」 「どこにだ。」 「それはまだ決まってない。でも、父さんの会社には入らない。」  きっぱり自分の意思を伝えると「そうか」と、静かに言った。  父は何を思ったのだろうか、僕にはさっぱりわからないし、これからもわかる気がしない。 「しかし、何れは継いで欲しい。」 「僕には重荷だよ。無理だ。」 「無理じゃないさ。外で勉強してくればいい。」 「僕は、もう父さんの言いなりになりたくない。」  地雷だとわかりながらもその道を行くのは悪いことだとは思わなかった。  父の顔がかわった。静かに苛立ちを沈めている顔だ。この顔はむかしから読み取れた。 「まあ・・・いい。年頭に入れといてくれ。」 「・・・・・・」  返事をする気はなかった。否定しても何か言われるだけだと、わかりきっていたから。 「話は終わり?」 「ん、ああ。もういいぞ。」 「そう。僕、図書館行って来る。」  図書館から帰ってきたら父は家に居ないだろう。  憂鬱な気分になりながらも図書館に足を向けるのは習慣づいてしまったからだろうか。  そこでふ、と思い出すのすのは昨日の事。  来週の今頃はあの男とサイン会に向かっているに違いない。  そういえば、あの男の名前すら知らないのによくもサイン会の話なんて承諾したものだ。  普段の自分であれば警戒こそすれ、簡単に信用したりしない。  あの柔らかい雰囲気と、喋り方、声色、顔それのどれもがそうさせていた事に、自分の気持ちに、この時の僕は気がついていなかった。
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