第一章

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 一週間はあっという間に過ぎた。  土曜日の今日、名前も知らない男と何故かサイン会に行くことになった日である。  外出の為に仕度を済ませ、誰も居ない家に向かって声をかけるも当然返事が帰ってくるわけでもなく、鍵をかけて歩きだした。  約束の時間である十二時の五分前に着くと既に見知った男が本を片手に、壁に背を向け佇んでいた。何だかそれが凄く様になっていて目がはなせなくなる。  しかしずっと見続けるのも失礼だし、そろそろ約束の時間だ。  足早に男のもとに行こうとすると派手な装いの女性二人が彼に話しかけていた。  それを気にした様子を見せずわざと声をかける。 「お待たせしました。」 「あー、すみません。これから用事があるんで。」  男がやんわり断りを入れると女性たちは慌ててもと来た方へ行った。僕の目元を覆う前髪のせいか、断られたからか定かではないがこれで静かになる。 「モテるんですね。」 「はは、そんなことないよ。さ、行こうか。」  二人で目的地に向かう途中に視線が気になった。  女性からの視線は隣を歩くこの男にそそがれていた。  確かによく見ると身長も高いし、目立ちがはっきりしているのにタレ目だ。女心をくすぐるのだろうか。  何故かもやっとした。しかし、今隣を歩いているのが自分であることに優越感を感じた。 「何時から始まるんですか?」 「二時からだよ。きみはご飯食べた?」 「まだです。」 「ならどこか入ろうか。」  暫く歩くと静かなカフェがあった。こんなところにカフェがあったのか。  初めての場所はドキドキする。  そのカフェに入って奥のテーブル席に案内された。 「何にする?」 「ランチセットにします。」 「ん、すみせーん!」  目の前の男が店員を呼びさらりと注文していく。慣れているのだろうか。またもやがかかった。  ご飯がくるまで本の話をした。  今までこんなにも話せる人間が居なかったのでいつもより饒舌になった自覚はあるが気にならなかった。
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