小林くんの恋、亜子の恋

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「亜子、あれっ?部活は?」 テニス部の子が、部室と違う方へ向かう私に気付いて、そちらを指差す仕草をする。 「ちょっと遅れるね」 私は三階の美術室に向かった。 廊下に充満した、有機溶剤の匂い。 「おえ」 クラクラしそう。 「あれ?なに、お前」 美術室のドアを開けると崎谷と小林くんが、しゃがみこんで休憩していた。 さすがにタバコは吸っていない。 「大島、テニスは?」 「ちょっと芸術を見学してから……う゛」 まだ半分しか消されていない壁の落書き。 「……これ、美術の秋山先生よね?」 みんなに影で"猿山"と呼ばれていた先生。 めっちゃ似てる……てかヒドい。 「な?そっくりだろ?小林って絵巧いんだよな」 崎谷が布にシンナーを染み込ませながら拭き始める。 「巧いけど、なんで壁なんかに描いちゃったのよ?」 油絵はキャンパスに描くものです。 「……あいつが嫌いなだけだよ」 小林くんも立ち上がり、猿の頭から消し始めた。 「小学生じゃないんだから」 私もスプレーとあまり布を手に取り、加勢に入る。 「……お前、部活行く前に具合悪くなるからマスクしとけよ」 「冬でもないのに、あるわけない」 そう私が返事すると、 小林くんは、胸ポケットからマスクを取り出した。 「?」 「秋山に渡されたの、使えよ、俺らは、慣れてるから」 「……なれ…」 ちょっと気分が悪くなった私は遠慮なく使わせて貰う。 「……なんかタバコくさい」 「一回使ったけど気にすんな」 ……………… 違う意味で クラクラきてしまう。
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