あやとり

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「今、とりあえず母さんがK市にいるから、そこに行くか、母さんが戻ってくるか悩んでる」 小林くんは、崩れた山と、潰れたおじいちゃんの家を、悔しそうに見つめていた。 「じいちゃん、どっちのオヤジなんだ?」 祐紀さんが、やっと、口を開く。 「父さんのほう」 小林くんの声は、 いつもより高い波の引く音と一緒に消えてしまいそうだった。 「父ちゃんは、戻ってこねーの?」 今まで、知らなかった、聞いちゃいけないような気がしていた 彼の家の事情。 「漁師じゃ食っていけないって県外に働きに行ったまんまだよ……もう三年くらい会ってない」 「……………」 小林くん もしかしたら 転校しちゃうかな……… 「亜子ちゃん」 消えてしまいそうな、 小林くんの背中に見入っていた私を、 祐紀さんの声がビクつかせる。 「はい……」 キスしてから、初めてちゃんと顔を見る。 「杏ちゃんと一緒に先に送ってくよ。定員オーバーだから」 あ みんなで六人か……… 「どうした?」 「小林くんを先に病院に連れて行ってあげてください。 海の水、汚かったし」 今は、 ファーストキスの相手にどう思われるかより、 小林くんの傷が心配だった。 「大島、やっさしー♪」 崎谷のからかいに、小林くんが蹴りを入れる。 ………今は、 「わかったよ、看護師さん」 小林くんの心が、 とても心配だった。
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