螺旋

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テニス部の活動で、一年の時に平沼先生を初めて顧問として見た時に、 冷たそうな端正な顔に、 同級生男子とは違う魅力を感じていたのは確か。 隔たりない、熱心な指導も、 私の中で、密かな淡い恋に近い形として、 三年になるまで、形を崩さないまま ちゃんと留まっていた。 「だいぶ、色白にもどってきたな」 そんな 淡い気持ちを崩したのは、 小林くんや祐紀さんだけじゃない。 「…先生、信号………青になりましたよ……」 いつの間にか、 女子生徒を"女"として見るようになった、 平沼先生の、 真っ黒な男の手。 「俺は、色白の女の子が好きなんだ」 気付かない方が、 良かったのかな。 「………先生、ちゃんとハンドル握ってください……」 先生の手が こんなに汚いなんて 知りたくなかった。 「次の補習も、ちゃんと来いよ」 「……………」 家に着く頃には、 完全に崩れた信頼と尊敬は、 「あら、亜子、補習終わったの?」 私を 屈辱感と 罪悪感でいっぱいにしてしまった。 「ちょっと、寝るね…」 私は 由美より弱い。 高校進学有利をエサにされて、 自分の足を触る先生の手を 払いのけることができなかった。
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