交差点

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「環ちゃん、これが今までと同じお薬で、こっちが新たに追加された薬ね」 外来薬局から持ってきた薬を説明し、 彼女の夕飯が運ばれてきたのを確認すると、私は、他の患者さんの部屋へ移動することにする。 「病院のご飯、味がしないからキライ」 心臓病棟には、やはり高齢な患者さんが多い。 環ちゃんのように、味に満足しない人が多数のなかで、 ふりかけや味付け海苔等を持参して、こっそり食べる高齢者もいるから、 私は、時々食事中に見回りに行く。 「大島さん、そろそろ上がりよね! そういえば、今日虫垂炎で入院してきた患者さん、知り合いなんだって?」 廊下で、婦長に声をかけられる。 「……付き添い人が、同級生なんです」 「あの、派手なひと?イケメンだったわね~、なんだか律儀そうだし、あんな人と付き合ったらいいのに……」 過去の出方医師との不倫に気づいていた彼女は、 そこまで言って、あ、と、話すのを止めて、そそくさとナースステーションに入っていく。 ″…………付き合っていくつもりだけどね″ 何歳になっても、女性の目を引く小林くん。 別れた奥様は、何時もヤキモキしていたに違いない。 「あの、花坂さん の病室はどこですか?」
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