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杏の検査診察中、
俺は、ロビーでコーヒーを飲みながら
亜子の事を考えていた。
__″ 待っててくれる? ″
…………″ 死ぬまで待つよ ″
あいつのトラウマが少しずつ払拭できるように、時間をかけるつもりだったのにな。
″ 祐紀さんとは、どこまでしてたの? ″
″ キスだよ ″
″ 大事に されてたんだな ″
「……………………」
いつも、俺達の前には分かれ道が用意されている。
「………早馬、MRIも血液検査も終わったよ」
「お、意外と早かったな」
半日かかるかと思った総合病院での検査。
「MRIも血液検査も、今のところ気にかかる点はないって」
小さな病院だと、数日以上かかってわかる検査結果も、ここなら当日に分かる。
「…………ほんとか?」
亜子の思い過ごしだったのか。
「ほんとだよ」
杏は、俺の横には座らずに、少し離れて椅子に座り、端正な横顔をキレイな髪で隠しながら、
「まさか、また会えるなんて思わなかった」
と、今更ながらの再会の感想を呟いた。
「…………?俺もだよ」
「会いたいと思って日本に来てしまったけど、会ってしまうと、ホントにそれでよかったのかな?って、……思ってしまうよ」
…………昔より、日本語がうまくなった杏。
「どうして、そう思うんだよ?」
「………………昔とは、みんな違うから」
………………嘘をつくのが上手くなった杏。
精算に呼ばれて、立ち上がった彼女の財布から、
診察予約カードがハラリと落ちていく。
「あ、杏、これ、そこに出さないと…………」
俺が拾ったカードには、
__【一週間後、放射線科】
と、
達筆な日本語が、書かれていた。
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