小林くんの愛 亜子の愛

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「俺が女と付き合う資格なんかないよ」 祐紀さんは、当たり前のように、また、さらっと言って 私の胸をチクチクさせる。 「………………そんなこと、…………」 「あるよ、前科者なんだから」 「………………」 「すみませーん、注文いいですか?」 近くを通ったウエイトレスに声をかけ、 トルコライスを二つ頼んだ祐紀さんは 「食後にコーヒーも」 普通の注文をしているだけなのに、 ウエイトレスの女の子が緊張してしまうくらい素敵な33歳だ。 「もったいないよ…………」 心からそう思った。 「ケガさせた相手、仕事も結婚もしてなくてね……保障問題もあるし、 誰かと付き合っても、幸せな結婚はできないから」 トルコライスのスパゲッテイが、 しょっぱく感じる。 「亜子ちゃんこそ、 凄く綺麗になったのに、なんで独身なの?」 「………………仕事が恋人だから」 「うそつけ、 そんなん仕事大好きって顔してねーぞ」 小林くんの時みたいに話すのは、ちょっと難しい。 「………………亜子ちゃんには、 幸せになってもらいたいよ」 サラダのドレッシングも、 何だか すっぱくて、 しょっぱかった。
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