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「あなた、亜子の彼氏なの?」
そう言って俺から視線を外さない女は、
先ほど殴られた時に唇が切れたのか、端から血がにじんでいた。
「…………そうだよ」
「祐紀さんは、結婚すんだよなぁ!?
あ、運ちゃん!そこ、アパートに止めて!」
崎谷が自宅付近で、タクシーから降り、やつの家に泊まるつもりだったから、
俺がそこで金を払っていると、
「いいわよ」
と、その女は、
運転手に金を差し出した俺の手を冷たい手で掴んだ。
「………いや、乗せたの俺らだし」
「さっきのお礼」
あまりに冷たい手だったから、ビックリした。
「結構な金額だよ悪いよ」
「また、お店に来たら、私を指名してくれたらいいから、名前、″カズミ″だよ」
___″カズミ″…………?
俺の中で、
何か引っ掛かるものを残して、女を乗せたタクシーは、来た道を戻っていく。
『方向、逆だったんじゃねーか』
俺は千鳥足の崎谷を抱えて、
亜子たちが眠るアパートへ戻っていった。
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