yuuki

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夜中の3時に、なにやってる? 俺は、由美親子を乗り越えて、ベランダの戸をそっと開けた。 「…………あ、おかえり」 「なにやってんだ?」 かなり冷えるのに、薄着のまま、 亜子はペンライトを持って外を眺めていた。 「お化けでもいんの?」 思わず後ろから抱きしめる。 「違うよ、眠れなくなって。もうお酒もなくなったし、 外、眺めてた。 ほら、そこ、 学校が見えるの」 「学校?」 亜子の吐く息は、ペンライトの明かりのなかで白く見えて、 二階から見える景色は、けして絶景ではないはずなのに、 「中学校……古いから、あと五年経ったら移転するらしいの」 稲佐山のキラキラした夜景と同じくらい美しいものに見える。 「五年か…………間に合わねーな」 「え?」 抱き締めてもなかなか、体温が上がらない亜子は、少し震えてるようにも見えた。 「俺と亜子の子供が中学生になるまえに、 学校 なくなっちゃうんだな」 ちゃんと しっかり抱え込んでいないと、 この子もなくなってしまうんじゃないかと思うくらいに、 「間に合わないけど、 今から作ろう?」 細くて頼りない身体を 壊れそうなほど、 抱き締めた。 「家に帰ってからな」 一美と同じように、失ってはいけない。 そう思いながら、 冷たくなった唇に、 何度も俺の熱を注ぎ込んだ。
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