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ナースステーションからの私の視線に気づいた一希ちゃんは、
ちょっと微笑んで、私を手招きした。
″あ………れ″
この間は、突き放されたような感じだっただけに、
意外なその態度に私は、久しぶりに飼い主に可愛がって貰える犬のように
そそくさと彼女のそばへ寄っていった。
「この間、崎谷君と、亜子の彼氏に会ったよ」
「……………あぁ」
やっぱり、
出会ってしまっていたんだ。
「″ 祐紀 ″さんて、かっこいいし、優しい人だね」
「…………うん」
「あの、病気で死んじゃった直也くんのお兄さんなんでしょ?」
「…………………………」
一希ちゃんの微笑みは、
「亜子って、つくづくあいつらと腐れ縁があるのね」
″ 浦さん ″の
何か別の笑いを含んだ、人を小バカにしたような表情と、同じものを私に見せている。
「………………うん、
運命なのかもしれない」
「………………へぇ、じゃ、
やっぱり、義兄さんとは、ほんとに遊びだったんだね」
別れと再会を繰り返して、
そこにあるものは、
本物の恋______
「…………出方先生には、お世話になったけど、
生涯を共にするような関係ではなかったから」
不倫を肯定するつもりはない。
「……人んちの家庭壊しといて、なぁに寝言いってんのよ?あんたも義兄さんも最低じゃん」
「…………ごめん」
謝ってすむ事ではないけれど、
「あんたより、絶対幸せになってやるから」
昔のように、
未来や恋の話をできる関係に戻りたいと
「………………うん、なってほしいよ」
そう、願ってしまうのは
身勝手過ぎるのかな?
「やっぱり、亜子は偽善者ぶってて見てるだけでイラつく」
一希ちゃんは、
軽く舌打ちして、
着替え等が入っているらしい紙袋を抱えて、浦さんのいる病室へ入っていった。
………………あの男は
きっと、
一希ちゃんを幸せにできる人じゃない。
そんな直感が、
自分の罪悪感を大きくしていく。
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