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「なんか、緊張するな」
平日の夕方。裕紀さんが挨拶のために団地の私の実家を訪れる。
「スーツ姿、こんなに似合うなんて思わなかった」
「馬子にも衣装だろ?」
笑顔ではいるけれども、
居間に通され、カチカチになってしまい、険しい顔をしたお母さんが出したお茶をやっと一口飲んだ彼は、
「あなたは、どうしてその年までお一人だったの?」
という直球クエスチョンに、お茶を吹きそうになっていた。
お父さんが帰宅する前からこの調子じゃ、この人もたないな。
ちょっと心配になる。
「俺、モテませんからね」
「その容姿なら、もてたはずよ、
何か問題でも抱えていたんじゃないの?」
昔から、見た目や素行で人を判断しがちだったお母さん。
小林くんのことも毛嫌いしていたっけ……。
「……結婚できない理由は、ありました」
バタン!
裕紀さんが、大事な話を切り出したと同時に、
お父さんが仕事から帰宅して、玄関が開閉する音が部屋中に響く。
「こんにちは。」
お父さんと、裕紀さんが同時に声を発して、
彼がスッと立つから、
私もあわてて立ち上がって、お父さんの方を見る。
「そんなかしこまらなくていい」
どうやら、お父さんの方が、
ちょっと緊張しているように思える。
「すまないが、君のこと、ちょっと調べさせてもらったよ」
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