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「遠回り…………」
もし、
五年前、
杏とも再会せずに、
彼女の思いも知らずに 小林くんと会い続けたなら、
祐紀さんと過ごしたように、
同じ部屋で、
同じ物を食べて
同じ空気を吸い、
同じように感じたり笑ったり
幸せな時間を
小林くんと過ごしていたんだろうか?
「………………亜子?あんまり、乗り気しないなら、酔っぱらいの独り言だと思ってくれていいよ」
車に乗って、ハンドルを握り、
それでも言葉が出てこない私。
「………………小林くんは、幸せだった?」
「ん?」
「はじめの奥さんや、杏と過ごした時間は、…」
きっと、″違う″と思った。
「…………もちろん、幸せだったよ。
始めの結婚は、若かったせいもあって
お互いに思いやれなかったから、後悔することもあったけど」
私と祐紀さんは、
小林くんと、あのまま関係が進んでいても
再会して、
触れあったと思う。
「私の中の祐紀さんが、まだ顔をだしても、
佳苗ちゃんが、傷ついても、
それでも、私と一緒に暮らせる?」
きっと、
二人には、
まだ経験しなければいけないことがちゃんと用意されていたのかもしれない。
「祐紀さんのことは、俺だって好きだったから、亜子と一緒に暮らしていれば、思い出すのは俺も同じだよ」
それは、
幸せな事だけでは
なかったけれど。
「それに佳苗も、もう16だよ。
そのうち、俺よりも大事な誰か見つけて、俺のことなんか、どうでもよくなるって」
小林くんは、
窓を開けて、昔 辞めたはずのタバコに火をつけた。
「亜子とずっと、仲良くできるように
また、願かけて禁煙しようかな?」
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