いざ、尋常に入籍

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  生ぬるく 織りなされていく日々の中、 時々目が覚めることがある。 それはだいたい ひどく傷付いている時だって、 今日ようやく気付いた。 シュン、とお湯の沸く 小気味の良い音が 遠くで聴こえる。 琥珀色の瞳は、 今にもキスしてしまいそうな 距離で私を覗き込んでいた。 「……天川さん、 今、なんて……?」 「結婚しませんか、って言いました」 「どうして」 「どうしてって……」 困ったように肩を竦める 目の前の男性は、 日常に溶け込む 心地よい軽薄さを備えている。 人生を左右する誘いを 口にしたばかりとは思えなかった。 .
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