√3の事情

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  韮沢は表情ひとつ変えずに、 ゆっくりと椅子から 立ち上がる。 腰のあたりで 椅子とデスクが ぶつかる音がした。 後退できないことに気付いて、 背に冷や汗が流れる。 韮沢の革靴が、 少し薄汚れたオフィスの タイルカーペットを滑った。 普段はこつこつと 小気味良い足音を 立てて歩くくせに、 素の韮沢はどこかずぼらで。 ──ということは、 これは先週の始めまでは 私のものだった彼だ。 とっさにそんな 情けないことを考えて、 泣きそうになってしまう。 「結婚って。急に。 おかしくない?」 「……別に、おかしくなんてないけど」 「俺達、別れたのついこの間だよな」 「……」 .
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