√3の事情

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  そんなこと言ったって、 廊下には人の気配がある。 いつ誰が気まぐれに ひょいと顔を覗かせるか 判らないっていうのに。 「お前は、俺のだったろ。 違うのか。 俺、お前のことを 誰かと共有してたってのか」 「関係ないでしょ。 自分のこと棚に上げて、 気持ち悪い言い方しないで!」 「許さないぞ、そんなの。 星野」 ……仕事中にみんなの前で うっかり呼び捨ててしまわないように、 お互いにあくまで同僚としての 呼び方をしていた。 それでも2人きりの時には、 特別な響きを持っている 気がしていたことを思い出す。 ──でも、 もう星野じゃないよ。 韮沢。 ぐいと腕を引かれ、 慣れた動きで 韮沢のもう片方の手が伸びてきた。 .
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