√3の事情

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  ひんやりとした薄暗い朝に 太陽の光が射し込んで、 空気が厚く膨らんでいく。 午前中のほんの一瞬だけ 感じることのできる ほこほこした暖かさに、 瞼の裏にしまい込んだ 眠気がまた誘われ 這い出てこようとしていた。 ──けれど、 今はその眠気にこっそり 微睡んでいる場合じゃない。 朝礼で社訓を読み上げたあと、 私は課長に前に来るように指示された。 オフィス中の人の 視線を受けながら、 ゆっくりと前に歩み出る。 こんなにたくさんの人に 一斉に見られるのは 入社時の自己紹介以来で、 思わず小さくなってしまった。 「今日は、おめでたい 報告があります。 営業推進部の星野さんが、 この度ご結婚されました」 .
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